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呼吸器の病気について

A .感染性疾患

1.かぜ症候群:鼻腔から咽頭までの気道の急性炎症による症状をいいます。多くはウイルス(アデノウイルスやライノウイルスなど)によるものです。くしゃみや咳などの飛沫により、ウイルスが体内に侵入することで感染します。症状としては、咽頭痛、鼻水などの症状だけでなく、発熱や倦怠感なども引き起こします。根本治療はなく、咳止めや抗炎症薬などの対症療法となります。

2.急性気管支炎:かぜ症候群での上気道の炎症が徐々に気管から気管支までに波及することで引き起こされます。気管支炎を起こすと、咳と痰がひどくなります。気管支の傷害がひどくなると、二次的に細菌感染を引き起こすこともあります。ウイルス感染に対しては安静加療となりますが、細菌感染を合併していると、抗菌薬が必要となることもあります。

3.肺炎:一般の社会生活を送っている人、すなわち健康な人あるいは軽度の病気を持っている人に起きる病気で、肺炎球菌や肺炎マイコプラズマなどの微生物による肺の炎症により、発熱、咳・痰、全身倦怠感を引き起こします。一般に軽症で、若い人に多い傾向はありますが、入院治療を要するほど重症となったり、高齢な人に起きることもあります。ただし高齢な人では、肺炎を起しても、このような症状をはっきりと示さないことがあります。肺炎は診察所見、胸部エックス線画像、血液検査で診断します。肺炎と診断した場合には、さらに原因微生物を調べる検査を追加します。鼻やのどの奥をこすりとったり、たんや尿を出してもらい、原因微生物を調べます。病原微生物に対する抗菌薬で治療します。軽症であれば、抗菌薬を飲んでもらい、外来への通院で治療します。年齢や呼吸状態などから重症と判断した場合には、入院します。肺炎球菌ワクチンを接種しておくことが、肺炎予防につながります。

4.肺結核:結核菌という細菌が肺に感染して起こる病気です。肺以外にもリンパ節、腸、骨などにも感染します。肺結核は人から人に感染します。咳・痰、血たん、だるさ、発熱、寝汗、体重減少などが出ることもあります。2週間以上せきが続く場合、血たんがある場合には胸部エックス線検査を受けましょう。胸部エックス線検査、胸部CT検査で特徴的な影を見つけます。ツベルクリン検査や血液検査(QFT検査など)で分かる場合があります。痰を調べ、顕微鏡観察や培養(6週間かかります)で菌があれば診断になります。結核と診断されたら、抗結核薬の内服治療をします。4種類の治療薬と副作用予防の薬を内服するため、多くの薬を毎日飲むことになります。治療は6ヶ月(2ヶ月治療したら2種類の治療薬に減ります)間と長く、途中でやめずに治療終了までしっかり続けます。治療が中途半端になると薬剤耐性結核となり、薬が効かなくなってしまいます。結核菌がたんから大量に出ている場合には菌が減ってくるまで結核専門施設で入院治療をします。

B .気道閉塞性疾患

1.慢性閉塞性肺疾患:慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)とは、従来、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称です。タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患であり、喫煙習慣を背景に中高年に発症する生活習慣病といえます。

2.びまん性汎細気管支炎:呼吸細気管支と呼ばれる細い気管支を中心に慢性炎症がおこり、咳や痰が出たり、息苦しくなる病気です。1969年に、日本から新しい病気として初めて提唱され、今では、世界中で認められている病気です。ほとんどの患者さんで慢性副鼻腔炎(蓄膿症)を合併するので、鼻づまり、膿性鼻汁、嗅覚低下などの症状があります。気道が狭くなり、さらに気道に細菌が定着し分泌物の産生が増え、持続する咳や膿性の痰、息切れがみられます。特に痰の量が多い(時に1日200~300mL)のが特徴です。胸部エックス線画像やCT検査で、両側の肺全体に広がる小さな粒状の影や気管支壁の肥厚、気管支の拡張、肺の過膨張所見がみられます。呼吸機能検査では閉塞性換気障害、血液検査では白血球数の増加、赤沈、CRPの上昇、寒冷凝集素価の高値などがみられます。痰からは、肺炎球菌、インフルエンザ菌が検出され、進行例では緑膿菌が検出されます。マクロライド少量長期療法が基本です。発症早期ほど効果が良いとされています。また、増悪の予防には、栄養状態の改善やインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンの接種も大切です。細菌感染により増悪した時は、原因となる細菌に対する抗菌薬の投与が必要です。以前は、予後の悪い病気でしたが、1980年代以降、マクロライド少量長期療法により、病気の経過は著しく改善しています。

C.アレルギー性疾患

1.気管支喘息(喘息):空気の通り道(気道)に炎症(ボヤ)が続き、さまざまな刺激に気道が敏感になって発作的に気道が狭くなる(大火事)ことを繰り返す病気です。日本では子供の8~14%、大人では9~10%が喘息です。高年齢で発症する方もおられます。ボヤの原因はチリダニやハウスダスト、ペットのフケ、カビなどのアレルギーによることが多いのですが、その原因物質が特定できないこともあります。

2.過敏性肺炎:肺にある小さな空気の袋(肺胞)や最も細い気道(細気管支)の内部や周囲に発生する炎症で、細菌やウィルスなどの病原体が原因でなく、有機物の粉塵や化学物質(これらを抗原と呼びます)を繰り返し吸い込んだことによるアレルギー反応が原因となります。息切れ、咳、発熱といった症状が見られ、抗原を避けることにより、改善しますが、長期間抗原に曝露されていると炎症が慢性化し、肺がどんどん固くなります。30~50才代の人に多い傾向にあります。季節は春から秋に多く、特に夏に多く見られます。抗原として頻度は高いものに、カビ(中でもトリコスポロンというカビが原因のことが多いです)が挙げられます。そのほかに、細菌の一種、鳥類の排泄物に含まれるタンパク質、キノコの胞子、ポリウレタンの原料となるイソシアネートなどがあります。これら抗原に反応するリンパ球が肺内に増えることにより炎症がおこり、酸素の取り込み低下やせきを誘発していると考えられます。胸部エックス線、胸部CTでの淡い陰影(スリガラス陰影)が認められます。血液中など抗原に対する抗体が検出されます。さらに入院して一旦よくなった症状が、自宅や職場に行って、抗原を再び曝露することにより症状が悪化することが特徴的です。程度が軽い場合には、抗原を避けるだけで、改善しますが、より重症になると酸素やステロイド薬を要することがあります。再燃予防として、転居・大掃除や転職と行った環境を整えることが必要です。

D.間質性肺疾患

1.特発性間質性肺炎:肺は肺胞というブドウの房状の小さな袋がたくさん集まってできています。間質性肺炎は、肺胞の壁に炎症や損傷が起こり、壁が厚く硬くなるため(線維化)、酸素を取り込みにくくなる病気です。間質性肺炎の原因は様々ですが、原因不明のものを特発性間質性肺炎(IIPs)と総称します。IIPsは主要な6つの病型、稀な2つの病型および分類不能型に分類されます。IIPsのなかでは特発性肺線維症(IPF)が80~90%と最も多く、次いで特発性非特異性間質性肺炎が5~10%、特発性器質化肺炎が1~2%程度です。わが国におけるIPFの調査では、発症率が10万人対2.23人、有病率が10万人対10.0人とされています。IPFは50歳以上の男性に多く、ほとんどが喫煙者であることから、喫煙が「危険因子」であると考えられています。初期には無症状のことが多く、病状がある程度進行してくると動いた時の息切れや痰を伴わない咳を自覚します。問診、身体診察に加えて、胸部エックス線や胸部CT、呼吸機能検査、運動時の血液中の酸素の量の低下の割合などから病状を評価し、病型の分類を推測します。気管支鏡検査により肺胞の洗浄検査等を行うこともあります。最も正確な診断は肺の組織検査によって行われますが、全身麻酔による手術を必要とするため、患者さんの状態によって施行すべきか検討します。病状がある程度進行したIPFでは、抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)により病気の進行を緩やかにできる場合がありますが、効果には個人差があります。その他の病型のIIPsでは、多くの場合ステロイド剤(副腎皮質ホルモン剤)や免疫抑制剤が適応となります。病気が進行すると呼吸不全となり酸素吸入が必要になることもあります。

2.サルコイドーシス:肉芽腫と呼ばれる結節が全身に出現する原因不明の病気です。病気の起こる部位は人によってまちまちですが、胸部(肺門・縦隔)のリンパ節や肺、眼、皮膚に多くみられます。そのほか頻度は少ないですが心臓や筋肉、肝臓、神経、腎臓など全身のどの臓器にも病変が出現することがあります。最近の臨床調査個人票を用いた疫学調査では、日本の新発見数(罹患率)は人口10万人あたり1.01人と報告されています。男性と比べて女性でやや発症しやすく、また20~30代と50~60代で発症しやすいといわれています。病気の原因は不明ですが、感染することはなく、また悪性の病気でもありません。家族内での発病がごく少数報告されていますが、一般的には遺伝しません。症状は臓器によって異なり、眼では霧視(霧がかかったようにぼんやり見える)、羞明(まぶしい)、飛蚊症(ちらちら視野に小さいものが移動する)などが出現します。皮膚では皮疹が、肺ではせき、呼吸困難などが出現することがありますが、約30~40%の患者さんは自覚症状に乏しく健康診断で発見されています。病変の組織を採取して、サルコイドーシスに特徴的な肉芽腫を証明することが最も重要ですが、胸部レントゲンやCT、ガリウムシンチなどの画像検査、血液検査、心電図検査、気管支内視鏡、などさまざまな検査を行い、また眼科や皮膚科、循環器科などでの診察も行い総合的に診断します。日本人ではサルコイドーシスが進行して生命にかかわることは極めてまれで、約6、7割の患者さんは自然に良くなります。眼や皮膚の症状に対してステロイド点眼や軟膏を使うことはありますが、多くの症例ではまず経過を観察します。肺や心臓、神経、腎臓、眼などの臓器で生命や生活の質(QOL)低下にかかわるような異常が生じた場合には、副腎皮質ステロイドの全身投与が必要になることもあります。

E.腫瘍性肺疾患

1.肺がん:肺がんは、肺に発生する悪性腫瘍で肺そのものから発生したものを原発性肺がんといい、通常肺がんといえば原発性肺がんを指します。一方、他の臓器から発生し、肺に転移したものを転移性肺がん、または、肺転移と呼びます。基本的にがんの性質は、どの臓器から発生したかで決まります。肺がんは、早期であれば手術が最も治癒の期待できる治療法ですが、発見された時には進行している場合が多く、手術のほかに放射線治療や抗がん剤治療、さらにこれらを組み合わせた治療が選択されます。全身のがんの中では、最も治療が難しいがんの一つです。肺がんの原因の70%はタバコですが、その他に受動喫煙、環境、食生活、放射線、薬品が挙げられます。タバコには約60種類の発がん物質が含まれており、肺や気管支が繰り返し発がん物質にさらされることにより細胞に遺伝子変異が起こり、この遺伝子変異が積み重なるとがんになります。がん細胞は細胞分裂を繰り返しながら無制限に増殖しますが、1cmのがんができるまでには約30回の細胞分裂が必要です。肺がんに特徴的な症状はありません。肺がんの種類、発生部位、進行度によって症状は異なります。せき、たん、倦怠感(だるさ)、体重減少、胸痛などさまざまですが、これらの症状はほかの呼吸器の病気でもみられます。一方、血痰は肺がんの可能性が高く、速やかに専門病院受診をお勧めします。日本人で最も多いのは無症状で、検診や、他の病気で胸部エックス線やCTを撮ったときに偶然発見される場合です。従って、最近では、人間ドックや検診にオプションでCT検診を選べるところもみられます。肺がんの検査には、(1)肺がんであることを調べる検査として、CT、たん検査や気管支鏡を用いた細胞検査(病理学的診断)があります。胸水が貯まっている場合は、針を体内に刺して胸水を採取しがん細胞の有無を調べます。(2)肺がんの進行度(がんの広がり)を調べる検査には、全身CT、PET検査、脳MRI、骨シンチ、超音波検査が用いられます。以上の検査で、肺がんの種類(小細胞がん、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん)を明らかにします。小細胞がんと、非小細胞がん(小細胞がん以外のがん)で進行度に応じて治療法が異なります。進行度は、転移のないものから進行がんまで4段階に分けI期、II期、III期、IV期に分類し、さらに腫瘍の大きさやリンパ節転移の広がりによってA、B(Bの方が進行している)に分類します。

2.転移性肺腫瘍:肺は体に必要な酸素をとり込むための全身の血液が循環する臓器で、微細な網目構造になった豊富な毛細血管が血液のフィルターの役割をしています。このため他の臓器にできたがん細胞が血流にのって流れてくると肺でひっかかりやすく、肺に転移が起こりやすいのです。心臓から送り出された血液は、全身を巡ってから肺に戻ってくるため、各臓器の多くのがんが肺に転移しやすいことになります。こうして種々のがんの転移として肺に腫瘍(できもの)が形成された場合を「転移性肺腫瘍」といいます。通常、血流を介した転移性肺腫瘍の場合、自覚症状は乏しく、原発腫瘍(元の臓器のがん)の検査中や経過観察中に撮影された胸部エックス線画像あるいはCT検査によって発見されることがほとんどです。一方、肺に転移したがんが放置されたままであったり、転移したがんが気管支に進展したり、気管支壁に転移したときにはせき、血の混じったたん、喘鳴、息切れなどの症状が現れることがあります。胸部エックス線やCTで発見されます。胸部エックス線画像では様々な形をとりますが、多くは多発性(数が多いこと)です。また、別の臓器にがんが発見され、全身CTやPET検査を行った際に発見されます。治療方針は原発腫瘍ごとに異なります。多くの方は進行がんであることが殆どで、抗がん剤の治療(化学療法)が選択されることが多くなります。近年、従来の抗がん剤とは異なる薬として分子標的治療薬が開発され、単独あるいは従来の抗がん剤と組み合わせて用いられ、治療効果が進歩してきています。転移性肺腫瘍は、元の臓器のがんの性格を受けついでいることが多いので、抗がん剤や分子標的治療薬も元の臓器のがんの治療薬が使われます。最近日本でも増加している結腸・直腸がんでは、ベバシズマブという分子標的治療薬と抗がん剤の組み合わせが有効で、この治療が効かなくなってもセツキシマブという薬があります。従来、肺に転移してしまうと有効な薬が少なかった腎がんや肝がんにも分子標的治療薬が開発されました。さらに前立腺がんなどの肺転移にはホルモン療法が非常に有効な場合があります。また、元の臓器のがんが切除されていて肺以外に再発がないこと、すべての転移巣が切除可能であることなど、いくつかの条件を満たせば手術が行われる場合もあります。結腸・直腸癌では、他の臓器に転移がなく、肺の一部を切除しても生活機能上特に支障がない場合は手術で取り除く方法がありますが、転移の個数や転移の場所、体力で慎重な判断が必要です。まずは、専門医にご相談ください。

3.縦隔腫瘍:縦隔とは左右の肺の間に位置する部分のことを指しており、心臓、大血管、気管、食道、胸腺などの臓器があります。縦隔腫瘍とは、これらの縦隔内臓器に発生した腫瘍の総称です。発生年齢は小児から高齢者まで幅広く、また悪性のものもあれば良性のものもあります。縦隔腫瘍は一般的に比較的まれな腫瘍です。腫瘍の大きさが小さい段階では無症状のことが多く、約半数は胸部エックス線やCT検査で偶然発見されます。無症状のものの約80%は良性であると言われています。縦隔腫瘍で手術を受けた症例をまとめた報告によると、最も多かったものは胸腺腫で、縦隔腫瘍の全体の約40%を占めていました。次いで多かったのはのう胞で15%、神経原生腫瘍が13%となっています。悪性度の高い腫瘍では、胚細胞性腫瘍が全体の約8%、胸腺がんと悪性リンパ腫がともに約5%でした縦隔腫瘍の診断をする際には、まず胸部エックス線画像、胸部CT検査、胸部MRI検査、超音波検査などを組み合わせた画像診断が行われます。また、腫瘍の種類によって血液検査で特徴的な異常を示すものもあり、腫瘍マーカーとして診断に有用です。治療方針を決定する上で、どの種類の腫瘍ができているのかが重要となるため、外部から針を刺して組織を採取し(生検)、顕微鏡による診断(病理診断)を行います。腫瘍の種類によって、最適な治療方法は異なります。良性腫瘍では一般的に手術が行われることが多く、悪性の場合には手術・放射線治療・抗がん剤治療のいずれかや、これらを組み合わせた治療が行われることになります。

F.肺血管性疾患

1.肺血栓塞栓症:心臓から肺に血液を送る肺動脈に血栓(けっせん)がつまるために起こります。血栓は主に下肢などの静脈内で血液が凝固して生じ、血液の流れに乗って肺に達します。大きな血栓が肺動脈を塞ぐと、酸素を取り込めなくなったり心臓から血液を押し出せなくなり、突然死の原因にもなることがあります。血液は流れが停滞すると凝固して血栓ができやすくなります。航空機などで長時間座っていて下肢の血液が滞り、血栓が生じて発症する“エコノミークラス症候群”が有名です。また、大きな手術の後や重症な病気のため寝ている時間が長くなると発症しやすくなります。他にも遺伝、様々な疾患、薬剤、加齢などによって血栓が生じやすくなることがあります。突然はじまる息切れ、胸の痛み、せきなどの症状がよく見られます。下肢のむくみや痛みが先行することもあります。突然の意識障害や心停止が最初に起こる場合もあります。以前は肺動脈造影や肺血流スキャンなどの検査が診断に必要でしたが、最近は高性能なコンピューター断層写真(CT)が肺血栓塞栓症の診断に活用されています。血栓溶解剤や抗凝固薬などが使用されます。重症な場合には人工心肺が必要になったり、カテーテルを用いた治療や外科手術をする場合もあります。

2.肺水腫:肺は酸素を取り入れ、体内で生じた二酸化炭素を排出するために、肺胞(はいほう)と呼ばれる小さな袋状の構造物に空気を取り入れています。この肺胞の周りには網目状の毛細血管が取り巻き、空気と血液との間で酸素と二酸化炭素が交換されています。肺水腫はこの毛細血管から血液の液体成分が肺胞内へ滲み出した状態です。肺胞の中に液体成分が貯まるため、肺で酸素の取り込みが障害されて重症化すると呼吸不全に陥ることがあります。肺水腫の原因には大きく分けて二種類があります。一つは心臓に原因がある場合で、何らかの原因で心臓の左心室から全身へ血液を送り出す力が低下し血液が肺に過剰に貯留する状態で、これを心原性肺水腫と呼びます。もう一つは心臓以外の原因で生じるため非心原性肺水腫と呼ばれます。このタイプは肺毛細血管の壁が病的変化により液体成分が滲み出しやすくなって生じるもので、中でも急性呼吸窮迫症候群といわれるものは死亡率も高い疾患です。非心原性肺水腫は重症肺炎、敗血症、重症外傷など様々な疾患に引き続いて生じます。肺水腫の主な症状は呼吸困難です。仰向けになると息苦しくなるため起き上がって座りたくなったり、夜中に突然息苦しくて目が覚めたりします。また、のどの奥でゼーゼーという音がしたり、ピンク色の泡のようなたんが出ることがあります。進行すると皮膚や口唇は紫色になり、冷や汗をかいて血圧が下がり意識状態が悪くなることもあります。診断は胸部エックス線画像で典型的な画像であれば容易ですが、典型的でない場合には様々な検査を組み合わせる必要があります。治療は心原性肺水腫と非心原性肺水腫で異なりますが、肺胞内の水分除去のための利尿薬、肺の炎症を抑えるための種々の薬剤などが用いられます。また、酸素投与を行ったり、さらに重症の場合には人工呼吸器を用いて、気道内を陽圧に保つ治療が行われることもあります。

G.胸膜疾患

1.胸膜炎:肺の表面をおおう胸膜に炎症が生じると、浸出液が肺内から胸膜を通り抜けて胸腔内へ移動し、胸水が生じます。このために胸痛や呼吸困難などの症状が現れる疾患を胸膜炎といいます。原因としては感染症や悪性腫瘍が多く、罹患率は地域により異なります。米国では肺炎随伴性胸水と悪性腫瘍に伴う胸水(癌性胸膜炎)が多く、年間の罹患数は各々約30万人および約20万人と報告されています。日本では癌性胸膜炎と結核性胸膜炎が多く、全体の60~70%を占めます。感染症の場合は胸痛を伴う発熱、悪性腫瘍の場合は呼吸困難が主な症状です。診断は胸水や胸膜の一部を採取して検査することで行います。治療の中心は原因に対する治療であり、感染症の場合は原因病原体に有効な抗菌薬を、悪性腫瘍の場合は有効な抗がん剤を投与します。胸水量が多い場合は胸水を体外に抜く処置を併用します。癌性胸膜炎の場合はさらに胸膜を癒着させる処置(胸膜癒着術)を行う場合があります。主な危険因子は、感染症の場合は糖尿病・大量飲酒・喫煙、肺がんの場合は喫煙です。感染症の治療成績は一般に良好ですが、悪性腫瘍の場合は概して不良です。

2.気胸:気胸とは、胸の中で肺を包む胸膜(肋膜)腔の中に空気がたまる状態です。気胸になると息を吸っても肺が広がりにくく呼吸がうまくできません。最も多い原因は自然気胸で10-30代のやせ形の男性に好発します。胸膜腔は正常ではごく少量の液体があり、息を吸うと胸郭が広がり胸膜腔が陰圧になり肺が広がり呼吸ができます。自然気胸は、肺の上の方にできやすいブラ(空気のたまった袋)が破れて肺の表面に穴が開き、肺の空気が胸膜腔に入ることが原因です。その他の原因で肺の表面に穴が開くことや外傷で胸壁に穴が開いても同様のことがおきます。気胸では胸膜腔の内圧が上がり、息を吸っても肺が広がらず呼吸がうまくできません。肺表面の穴からの空気の漏れがある程度の量になると漏れは止まることが多いのですが、時に空気が漏れ続けることがあり、胸膜腔の空気がどんどん増えて心臓や肺を強く圧迫し重篤になります(緊張性気胸といいます)。最も多い症状は、突然の胸の痛みと息苦しくなる(呼吸困難)ことです。緊張性気胸では、高度の呼吸困難やチアノーゼ、ショックなど重篤な症状を示します。X線写真やCTで、胸部の胸膜腔内に空気があることを見つければ診断できますが、同時に肺に気胸の原因となる病気があるかどうかも診断できます。肺表面にあいた穴が小さく軽度の気胸であれば、安静のみで改善します。胸膜腔内の空気が多い場合は、胸の外からチューブを入れて胸膜腔内の空気を抜く必要があります。空気の漏れが止まらない場合は、チューブから胸膜の癒着を起こす目的で血液や薬を入れて胸膜を癒着させたり、手術で穴を塞ぐ治療が行われます。自然気胸の予後は、適切な治療をすれば良好ですが、緊張性気胸は死亡に至る可能性にある重篤な状態です。また肺の病気に続発する気胸や外傷に伴う気胸は、原因となった病気や外傷の程度によって予後は異なります。自然気胸は再発することがあり、過去に気胸になったことがある方は過激な運動を避けるなどの注意が必要です。

H.呼吸不全

1.急性呼吸不全:呼吸では、空気中の酸素を血液に取り込み、体内で産生された二酸化炭素を血液から呼気に排出します。通常、動脈という体の各臓器に酸素と栄養を運ぶ血管の中にある血液には酸素分圧として100mmHg程度の酸素が存在します。酸素のほとんどは赤血球という細胞の中にあるヘモグロビンに結合しています。酸素分圧が60mmHg未満になると様々な組織や臓器に悪影響が生じるので、何らかの原因によって動脈血中の酸素分圧が60mmHg未満になる病態を呼吸不全と定義しています。呼吸不全のうち、比較的短い期間で急速に起こってきた場合を急性呼吸不全と呼びます。また、呼吸不全は、血液中の二酸化炭素分圧が正常か低下しているⅠ型呼吸不全と、増加しているⅡ型呼吸不全とに分けて考えます。二酸化炭素の排出は肺胞に出入りする空気の量(換気量)により決まるので、二酸化炭素分圧が体内に貯まっているⅡ型呼吸不全とは、様々な要因で換気量が十分でなくなっている状態と考えられます。急性呼吸不全の原因疾患には様々なものがありますが、肺炎や後述するARDS、急性肺血栓塞栓症、自然気胸などが代表的です。また慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎が感染や心不全などの合併を契機に急性増悪することもあります。急性呼吸不全の治療は大きく分けると、酸素吸入や人工呼吸など呼吸を補助する治療と、呼吸不全を起こした元の病気に対する治療とに分けられます。酸素は生命の維持に不可欠なので酸素投与は必須となります。ただし、Ⅱ型呼吸不全の患者に大量の酸素投与を行うと呼吸が止まってしまうことがあるので、注意が必要です。

2.慢性呼吸不全:大気中から酸素を体に取り入れて、体内でできた炭酸ガスを体外に放出するという肺の本来の働きを果たせなくなった状態を呼吸不全と呼びます。通常、動脈の血液中には100mmHg程度の酸素が含まれており、ほとんどが赤血球中のヘモグロビンと結合して体の各組織に運ばれます。血液中の酸素が減少することを低酸素血症と呼びます。体の組織でできた二酸化炭素を十分に体外に放出できないと高二酸化炭素血症になります。動脈血中の酸素分圧が60mmHg以下になることを呼吸不全と定義しています。二酸化炭素分圧の増加を伴わない場合(45mmHg以下)をI型呼吸不全、45mmHgをこえる場合をII型呼吸不全と呼びます。このような呼吸不全が1か月以上続く状態を慢性呼吸不全といいます。慢性呼吸不全を引き起こす肺の病気には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺結核後遺症、間質性肺炎、肺がんなどがあります。肺だけではなく、筋萎縮性側索硬化症や筋ジストロフィーなどの神経や筋肉の病気でもおこることがあります。低酸素血症による息切れ(呼吸困難感)が主な症状です。軽症の場合は坂道や階段でのみ息切れ(労作時呼吸困難)を自覚します。重症になると身の回りのことをするだけで息切れを感じて、日常生活が困難になります。その他の症状は原因となっているそれぞれの病気によります。高二酸化炭素血症が進行すると、頭痛や血圧上昇、羽ばたき振戦、意識レベルの低下などがみられますが、ゆっくりと病気が進行した場合は症状に乏しいこともあります。慢性呼吸不全の治療は大きく分けて、1)在宅酸素療法、2)換気補助療法、3)呼吸リハビリテーションがあります。その他、原因となっている疾患に対する治療が必要です。

1)在宅酸素療法
 大気中の酸素濃度は約20%ですが、この酸素濃度では十分に血液中の酸素を高めることができなくなった慢性呼吸不全の患者さんでは、濃い酸素を吸入することで血中酸素分圧を保つことができます。自宅でも酸素を吸入することが可能であり、在宅酸素療法(HOT)と呼ばれています。HOTでは自宅に設置した酸素供給器(酸素濃縮器や液体酸素タンク)からカニューラと呼ばれる細長いチューブをとおして酸素を吸入します。酸素濃縮器は空気中の酸素と窒素を分離し、酸素のみを患者さんへ供給することができます。液体酸素も使用可能ですが、ほとんどの場合で酸素濃縮器が使用されています。携帯用酸素ボンベを使うことで外出も可能です。最近では比較的軽量な携帯型酸素濃縮器も使用できるようになり、充電さえ行えば長時間の外出も可能となっています。現在、適応基準を満たせば、在宅酸素療法は健康保険が使えます。

2)換気補助療法
 動脈血中の酸素が少ない場合は酸素吸入で対応することができますが、二酸化炭素が増えてきた場合は酸素療法のみでは不十分であり、機械の力を借りて呼吸の補助を行う必要が生じます。従来の人工呼吸は気管の中に管を入れなければできませんでした。これでは、声を出すことができなくなりますし、在宅療養や長期間の管理が難しくなります。しかし最近では、非侵襲的陽圧換気(NPPV)と呼ばれる特殊なマスクを装着して行う人工呼吸の方法が進歩しています。鼻や顔に密着したマスクから、設定した圧力で肺の中に空気を送り込む方法です。このような方法により二酸化炭素が増えている慢性呼吸不全の患者さんに対して気管に穴を開けなくても在宅で対応することができるようになってきています。

3)呼吸リハビリテーション
 日常生活の指導、運動療法、栄養指導、肺理学療法などを含めた多職種による包括的呼吸リハビリテーションが行われます。これによって慢性呼吸不全患者の生活の質(QOL)や日常活動度(ADL)を改善させることが可能と考えられています。

I.その他の疾患

1.気管支拡張症:鼻や口と肺をつなぐ管を気管支といいます。気管支は気管から木の枝のように分岐して、肺の中に空気を運ぶ通路の役割をします。何らかの原因で、気管支が広がってしまった状態を気管支拡張といいます。気管支拡張に原因は、先天的な原因や幼小児期の肺炎、繰り返す感染などで、気管支壁が壊れたり弱くなることにより生じます。気管支が拡張するといくつかの問題が生じます。第一に気管支の壊れた部分に、細菌やカビが増殖して炎症をおこし、気管支の壊れによる気管支拡張がさらに進行します。増殖した細菌やカビはその他の肺の中にもひろがり、肺炎を起こして、肺の壊れがどんどん進行してしまいます。気管支拡張の部分には、炎症に伴って血管が増えるために喀血をきたすことがあります。気管支と肺の壊れが進行し次第に肺の機能が低下してゆきます。症状として多いのは、痰や咳、肺炎をおこしやすいなどの症状です。血痰や喀血もよくみられます。時に大量の喀血を起こすことがあります。X線写真やCTで気管支拡張があるかどうかを診断します。また感染が疑われる場合は病原菌を同定するために痰の培養検査が必要です。喀血が多い時は、血管が増えている状態を見るために血管造影(股の付け根の動脈から細い管を入れて気管支に行っている血管を造影する検査)を行うことがあります。症状の軽減や炎症を抑えるためにマクロライド系抗菌薬を投与したり、痰をスムーズに出す薬なども併用します。感染を起こしていることが疑われる場合には、適切な抗生物質を使って感染を抑えます。血痰や喀血に対しては止血剤などの投与を行いますが、大量の喀血や喀血が止まらない場合は、血管撮影を行って、カテーテル(血管にいれた管)からゼラチンなどを注入して血管をつめて出血を止めます。このような保存的な治療で症状が改善しない場合は、手術で拡張した気管支を含む肺を切除することもあります。気管支拡張のある方は、気道感染症により症状が悪化、また病気自体が進行しますので、風邪などにかからないように注意してください。また痰はためないようにしてください。予後は、気管支拡張の程度や範囲、感染の合併に程度などで異なります。

2.過換気症候群:精神的不安や極度の緊張などにより過呼吸の状態となり、血液が正常よりもアルカリ性となることで様々な症状を出す状態です。神経質な人、不安症な傾向のある人、緊張しやすい人などで起きやすいとされます。何らかの原因、たとえばパニック障害や極度の不安、緊張などで息を何回も激しく吸ったり吐いたりする状態(過呼吸状態)になると、血液中の炭酸ガス濃度が低くなり、呼吸をつかさどる神経(呼吸中枢)により呼吸が抑制され、患者さんは呼吸ができない、息苦しさ(呼吸困難)を感じます。このために余計何度も呼吸しようとします。血液がアルカリ性に傾くことで血管の収縮が起き、手足のしびれや筋肉のけいれんや収縮も起きます。患者さんは、このような症状のためにさらに不安を感じて過呼吸状態が悪くなり、その結果症状が悪化する一種の悪循環状態になります。自覚症状には息をしにくい、息苦しい(呼吸困難)、呼吸がはやい、胸が痛い、めまいや動悸などがあります。テタニーと呼ばれる手足のしびれや筋肉がけいれんしたり、収縮して固まる(硬直)症状がでます。手をすぼめたような形になり“助産師の手”と呼ばれます。この所見は、血圧計のマンシェットを腕に巻いて手の血流を止めるとより出やすくなります(トルーソー徴候)。耳の前や顎の関節をたたくと顔面神経が刺激され、唇が上方にあがります(クボステック徴候)。呼吸がはやく、呼吸困難感を訴える患者さんで、上記の自覚症状や筋肉のけいれん、硬直などの所見があればこの病気を疑います。動脈血液ガスの検査では、炭酸ガス濃度が低く、アルカリ性になります。治療ですが、意識的に呼吸を遅くするあるいは呼吸を止めることで症状は改善します。患者さんは不安が強くなかなか呼吸を遅くすることができませんので、まずは患者さんをできるだけ安心させゆっくり呼吸するように指示します。紙袋を口にあてていったん吐いた息を再度吸わせることで、血液中の炭酸ガス濃度を上昇させる方法(ペーパーバック法)がありますが、この方法では血液中の酸素濃度が低くなりすぎたり、炭酸ガス濃度が過度に上昇したりする可能性がありますので充分な注意が必要です。不安が強い患者さんでは、抗不安薬などの投与を行うことがあります。

3.睡眠時無呼吸症候群(SleepApneaSyndrome:SAS):睡眠中に無呼吸を繰り返すことで、様々な合併症を起こす病気です。空気の通り道である上気道が狭くなることが原因です。首まわりの脂肪の沈着が多いと上気道は狭くなりやすく、肥満はSASと深く関係しています。扁桃肥大、舌が大きいことや、鼻炎・鼻中隔弯曲といった鼻の病気も原因となります。あごが後退していたり、あごが小さいこともSASの原因となり、肥満でなくてもSASになります。いびき、夜間の頻尿、日中の眠気や起床時の頭痛などを認めます。日中の眠気は、作業効率の低下、居眠り運転事故や労働災害の原因にもなります。問診などでSASが疑われる場合は、携帯型装置による簡易検査や睡眠ポリグラフ検査(PSG)にて睡眠中の呼吸状態の評価を行います。PSGにて、1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた回数である無呼吸低呼吸指数(AHI)が5以上であり、かつ上記の症状を伴う際にSASと診断します。その重症度はAHI5~15を軽症、15~30を中等症、30以上を重症としています。AHIが20以上で日中の眠気などを認めるSASでは、経鼻的持続陽圧呼吸療法(Continuous posi-tive airway pressure:CPAP)が標準的治療とされています。CPAPはマスクを介して持続的に空気を送ることで、狭くなっている気道を広げる治療法です。また、下あごを前方に移動させる口腔内装置(マウスピース)を使用して治療することもあります。小児のSASではアデノイド・口蓋扁桃肥大が原因であることが多く、その際はアデノイド・口蓋扁桃摘出術が有効です。

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