火傷(やけど)
熱によって皮膚や粘膜に障害が生じる外傷の1つです。
皮膚障害の程度は接触する熱源の温度と接触時間によって決まります。非常に高温のものであれば短時間の接触でもやけどになる一方で、44℃~50℃程度の低温のものでも長時間接触しているとやけどになり、これを低温熱傷と呼んでいます。
原因について
熱源としては高温の固体や液体、あるいは直接の炎や爆発による爆風などがあります。
また特殊な熱傷としては電流(落雷や高圧線など)による電撃傷や薬品(酸やアルカリ溶液など)による化学熱傷などがあります。
液体ではヤカンや鍋のお湯、天ぷら油、コーヒーやお茶、味噌汁などの熱い飲み物、カップ麺などが多く報告されています。そのほかに高齢者や小児では高温の浴槽での事故もみられます。
また固体としてはストーブやアイロン、ホットプレートなどがあります。
直接の炎では調理中の着衣への引火、仏壇のロウソクから着衣への引火、火災によるものなどの報告があります。
小児では花火によるものや、乳幼児では炊飯器やポットの蒸気に手をかざしてしまって受傷することもあります。テーブルの上のカップ麺や飲み物に手をかけてこぼしたり、あるいはテーブルクロスを引っ張ってしまって、これらをこぼして受傷したりすることもあります。
低温熱傷は下腿に多く、原因としては湯たんぽや電気あんか、電気毛布、使い捨てカイロなどによるものが報告されています。
低温熱傷は深いやけどとなりやすく、専門的治療が必要となる場合が多いです。
低温熱傷を予防するためには湯たんぽは寝る前に布団から出す、電気製品は電源を切るなどして、このような器具が長時間同じ部位に触れないように注意しましょう。
分類・治療
深いやけどや広範囲のやけどで重症の場合には、全身状態が悪化して命に関わることがありますので、熱傷専門施設での治療が必要となります。
また重症でない場合でも適切な治療が行われない場合には、キズに細菌が繁殖するなどして治るのが遅くなると後遺症(キズあとのひきつれや盛り上がりなど)を残すこともあります。
やけどの深さは大きく分けるとⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度の3段階に分類されます。
Ⅰ度は表皮まで、Ⅱ度は真皮まで、Ⅲ度は皮下組織まで傷害が及んだものです。
Ⅰ度は日焼けと同じように皮膚に赤みが出る程度です。Ⅰ度熱傷では多くの場合炎症を抑える外用剤などでほとんど後遺症を残さず治ります。
Ⅱ度になると水ぶくれができるのが特徴で、ヒリヒリとした痛みを伴います。Ⅱ度熱傷は深さによって更に2つに分けられます。浅いⅡ度熱傷は浅達性Ⅱ度熱傷、深いⅡ度熱傷は深達性Ⅱ度熱傷と呼ばれます。
部位と範囲にもよりますが、水ぶくれができるようであれば形成外科への受診をお勧めします。
Ⅲ度になると皮膚に血の気がなくなり蠟のように白くなったり、炎で受傷した場合には炭のように黒くなったりします。Ⅲ度になると痛みを感じる神経まで損傷されるので逆に痛くないのが特徴です。Ⅲ度熱傷の場合には皮膚の障害が強く、治るのに時間がかかるため小範囲の場合でも医療機関での治療をおすすめします。
一般的に浅達性Ⅱ度熱傷までの浅いやけどであれば軟膏やキズを湿潤状態で保護する創傷被覆剤による治療で後遺症無く治る場合が多いのですが、深達性Ⅱ度熱傷より深いやけどになると治るのに時間がかかり、後遺症を残すこともあります。このため場合によっては手術が必要となります。
小児では受傷後経過とともにやけどのキズが深くなる場合があるので、より慎重な管理が必要となります。
やけどを受傷したら直ちに流水で患部を冷やすことが大切です。
冷やすことによりやけどが深くなるのを防ぎ、痛みを和らげることができます。部位や範囲にもよりますが、水道水で5分から30分ほどを目安に冷やしましょう。
小範囲であれば水道の流水で。広範囲であればお風呂のシャワーで冷やすとよいでしょう。
ただし小児や高齢者の広範囲の場合に長時間冷やすと低体温になることがあるので注意が必要です。水ぶくれができている場合にはできるだけ破らいようにして病院に行きましょう。
服を脱がせると、その時に水ぶくれを破いてしまう場合があるので服を着たまま水道水で冷やすのがよいでしょう。
Ⅰ度・Ⅱ度の浅いやけどの場合には、軟膏や創傷被覆材による治療が行われます。
浅いやけどではキズの中に表皮の基となる基底細胞が多く残っているので、ここから表皮の再生(上皮化)が期待できます。このため浅いやけどでは基本的には創面を乾燥させずに適度にしっとりした環境(湿潤環境)にして上皮化による治癒を目指します。この状態を維持するために浸出液の量や創面の状態を観察して軟膏や創傷被覆材を選択します。
ただしキズに細菌が繁殖する創感染がおこるとやけどのキズが深くなり、治るのに時間がかかります。
このため創感染がある場合には創洗浄や抗菌力のある外用剤など、感染対策のための治療を選択していきます。
Ⅰ度や浅いⅡ度までのやけどが順調に治ると後遺症を残さない場合がほとんどです。
深いⅡ度のやけどの場合にはキズの中に上皮化の基となる細胞が少なくなってしまい、外用剤や創傷被覆材の治療のみでは治癒に時間がかかり、後遺症を残す可能性が高くなります。
またⅢ度熱傷となってしまった皮膚は血流が無くなり、皮膚が死んでしまった状態(壊死)になっています。壊死した皮膚をそのまま残しておくと細菌の感染源となる恐れがあるので、基本的には切除します。これをデブリードマンといいます。デブリードマンした部分は皮膚が無くなった状態になります。
範囲が狭ければ周りの皮膚からの上皮化での治癒が期待できますが、広範囲の場合には治るのに時間がかかるうえに、治癒後の後遺症の可能性が高くなります。
このような場合には身体の他の部分から皮膚を移植する手術(植皮術)が必要となります。植皮術が必要となると基本的には入院治療が必要となります。植皮術には様々な方法がありますが、やけどの範囲と,部位により適切な方法を選択します。